TV中継でもついつい審判の動きを見てしまう

 2020年東京オリンピック競技大会のソフトボール競技は、日本が13年前の北京大会以来となる金メダルを獲得して閉幕しました。

 ソフトボールは、北京大会以来の競技開催とあって、テレビ中継を食い入るように見てしまいました。僅少差、さよならゲームとどの試合もハラハラ・ドキドキでしたが、最高の結果となって本当に良かったです。選手の皆さんおめでとうございます。

 さて、ソフトボールは普段はテレビ中継されることがなく、試合はYouTubeで見ることが多いのですが、今回のオリンピックでは13年ぶりの競技復活という事もあって関心も高く、日本の試合はテレビ中継されたため多くの試合を見ることができました。

審判員の動きを見てしまうという“審判員あるある”

 試合ではもちろん日本の応援をしていたのですが、熱く応援するのと同時に、中継の各所で一瞬映り込む審判員の動きを目で追ってしまっていました。これは、“審判員あるある”なのではないでしょうか。

 オリンピックは国際大会ですから、審判員も参加各国から派遣されてきた国際審判員が務めています。皆さん各国のトップレベルの審判員ですから、私のような“まだまだ審判員”にはある意味“あこがれ”の方たちです。

 北京オリンピックで試合を見、そして東京オリンピックの開催が決まった時、「オリンピックで審判員がしたい」と審判員なら誰もが思ったのではないでしょうか。もちろん、そんなに簡単にかなう夢ではありませんから、今回もテレビの前で“あこがれ”の審判員たちの姿を目で追っていたわけですが。

さすがだと感心したジャッジ

 数々あった名場面の中でも、さすがだなと感心した場面がありましたのでご紹介します。と言っても選手の好プレーではなく、まずは審判員のジャッジです。

 TV中継は選手のプレイを追っていきます。カメラマンもプロですから、画面ではボールの動きをしっかりと追っていきます。なので、審判員の動きは本当に一瞬で、それも画面の片隅に映り込む程度です。この投稿を書くため、確認しようとYouTubeで映像を探したのですが見つかりませんでした。もし見間違いや勘違いならお許しください。

 さて、その場面というのは、予選リーグの日本対メキシコの試合だったかと思います。日本が最初の得点を入れた場面でした。ホームベースに走り込む日本選手と帰ってきたボールを受けた捕手とがクロスプレーになるという場面です。そこで一瞬、左手を真横に延ばした主審の姿が映りました。中継で主審の姿が映ったのはこの一瞬のみで、日本に得点が入ったことがアナウンスされて試合は淡々と進んでいきました。

 この左手を真横に延ばす審判員のシグナル(動作)は、「ディレードデッドボール」と言われるものです。ディレードデッドボールとは、何か不正があった時、即座にプレイを止めるのではなく、一連のプレイが完了するまで待つために、とりあえず不正があったことを示すためにするシグナル(動作)です。一般の試合でもピッチャーの不正投球や打撃妨害、走塁妨害などで見られます。

【オフィシャルソフトボールルール】
1-19項 ディレード デッド ボール DELAYED DEADBALL とは、プレイが完了するまでボールインプレイで、そのプレイが一段落したのち、審判員が適切な処置をすることをいう。

 この場面、このタイミングでディレードデッドボールが宣告されるという事は、捕手にオブストラクション(守備側の妨害行為)があったという事なのでしょう。つまり、捕手が走者にタッチしに行くとき、ホームベースの前縁を足で隠してしまい、ホームへ向かう走者の走塁を妨害したと判断されたのでしょう。

 ただし、この場面で走者のホームインが早かったのか、走塁妨害が適用されたのかは映像からは分かりませんでした。走者のホームインが早ければ何もなかったかのように試合は進んでいきますし、走塁妨害が適用されたとしても、走者はその塁間でアウトになることはありませんから、プレイがひと段落した後にボールデッドが宣告され、ホームインが認められます。 

【オフィシャルソフトボールルール】 ※必要カ所のみで適宜省略しています。
1-47項 オブストラクション OBSTRUCTION(守備側の妨害行為)とは、次のことをいう。
2.野手が球を持たないか、打球を処理しようとしていないとき、正しく進塁している走者の走塁を妨害したとき。

【オフィシャルソフトボールルール】
8-4項 走者に安全進塁権が与えられる場合
2.野手が走者の走塁を妨害したとき。
<効果>2
 走塁妨害が発生したとき(ランダウンプレイを含む)は、
(1)ディレードデッドボール。
(2)走塁を妨害された走者および他の走者は、審判員の判断により妨害が無ければ達していたと思われる塁までの安全進塁権が与えられる。
(注1)走塁妨害は野手が走者に触れなくても走者の走塁に影響を与えたかどうかを審判員が判断する。
(注2)走者が塁に達しようとしているとき、野手は塁の前縁を空けなければならない。
 野手がこれに違反したため、走者が塁に触れることができなかったときは、走塁妨害が適用される。
(注3)走塁を妨害された走者は、その塁間ではアウトになることはない。

 ディレードデッドボールは、一般の試合の中でもちょくちょく発生するものですから、特別なジャッジという訳ではありませんが、オリンピックという大舞台での冷静にジャッジにさすが国際審判員、各国の代表として派遣されただけのことはあると感心させられました。

さすがだと感心したプレイ

 さて、このホームベース上でのオブストラクション(走塁妨害)に関しては、日本とアメリカが争った決勝戦でも似た場面がありました。

 1回裏のアメリカの攻撃。1アウト3塁の場面。上野投手が投げた球を捕手が後逸し、3塁走者はホームへと走り込んだのですが、素早くホームカバーに入った上野投手が球を受けて走者をタッチアウトにしたプレイです。

 この時、上野投手がホームベースを隠さないように右足をずらしている動作が映像でも確認できました。上野選手は試合後のインタビューで「ホームベースを隠さないようにしながら確実にタッチに行った」と答えていますから、オブストラクション(走塁妨害)を意識して冷静に回避する動作をされたのです。

 決勝戦の初回、センターフェンス直撃の三塁打を打たれてのピンチですから、かなりの緊張感があったと思います。しかし、幾多の修羅場をくぐり抜けてき名選手だけのことはあります。さすがに冷静で、全く隙のないプレイです。あれくらいの選手になれば当たり前のプレイなのでしょうか・・・?。と感心することしきりでした。

一つのプレイ、ジャッジが勝負の行方を変えるかもしれない

 このジャッジとプレイ。そうした事態が起こったその時にできるかどうかで、勝負の行方は変わってしまいます。トップレベルの選手・審判員にとっては当たり前のことなのかもしれませんが、私のような“まだまだの審判員”がその高みに至るには、さらなる鍛錬が必要なように感じます。
 ああ審判に立ちたい。

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